
最近同業者の方からの相談とコンサルティング実務の2つの局面で「専門家の役割」について考える場面がありました。どちらも利用者側からは“コンサルタントを活用する意義”にも通じるものです。
そこで今回は上記2つの事例を通じて、専門家の果たすべき役割について考えてみたいと思います。
ある同業者Aさんから次のような相談をいただきました。
自分が担当しているX社から次のような相談があった。

Aさんからの相談に対して、当研究所代表の私、鈴木からまず確認したのは“退職者の退職理由をヒアリングしたのかどうか”という点です。Aさんからの答えは“していない”とのことでした。
こちらについては詳細な経緯を記載することはできませんので、ポイントのみ以下に示します。


この会社では、大幅な賃金ダウンを伴う降格制度を新たに導入することを最有力の選択肢として考えていたようでした。しかし、上記のような人材採用にあたって“最初は正社員ではなく契約社員として採用する”という手法は全く想定していないようでした。
上記X社からの相談内容を箇条書きにまとめた結果だけ見れば、専門家でなくても“なぜ退職者の退職理由をヒアリングしないのか”不思議に思うはずです。しかし、コンサルティングの利用者=顧客は上記箇条書きのように要点をまとめて相談してくれることはまずありません。通常は顧客の方もアウトプット項目、すなわちこの場合であれば新たな勤務体系や人事・給与制度のあり方の方に目を奪われてしまい、“これらアウトプット項目の具体的内容を決めるうえで最も重要な資料は何か”ということには意識が向かなくなるものです。そこで、

ところが、マニュアル化された分析手法やツールに大きく依存した仕事のスタイルを長年続けていると上記顧客の場合と同じようにアウトプット項目、すなわち“どの分析手法やツールを当てはめたらよいのか(あるいはどう当てはめたらよいのか)”という方に意識が集中してしまい、顧客の話の本質が見抜けなくなってしまうのです。

マニュアル化された分析手法やツールしか使えない、ということでは“専門家”とは言えないでしょう。
この場合に専門家として果たすべき役割は“立法論と制度論を明確に区別し、制度論の範囲内でベストと考えられる選択肢を提示する”ということでしょう。立法論、すなわちこの場合であれば「一定の金銭を支払えば自由に解雇できるしくみを認めるべきだ」ということをいくら主張してもそれで顧客が抱える課題や悩みが解決できるわけではありません。少なくとも具体的な解決策が求められているコンサルティング実務の中では、専門家としては現行法の枠内でベストと考えられる選択肢を提示するという“制度論”の立場に特化すべきでしょう。事例として取り上げた今回のケースは比較的簡単なものですが、気をつけなければならないのは“顧客の話に引きずられて、その範囲内で考えてしまうこと”です。今回のケースでは“降格制度の内容の精緻化”や“不利益変更の可否”といったことが該当します。そのような境界線スレスレの道を歩かなくても上記のとおり“最初は正社員ではなく契約社員として採用する”という手法で目的が達成できるのであればこちらの方を選択すべきでしょう。

“立法論”は今すぐの解決策となるものではなく、具体的な解決策が求められているコンサルティング実務の中では意味を持つものではありません。
※本年4月1日から施行される改正労働契約法の内容についても上記で指摘した“立法論”が見聞きされる機会が多くあります。改正労働契約法の内容に対してどのような“制度論”が考えられるのかについては2012年6月号で詳述していますので是非ご覧ください。
今回は専門家の果たすべき役割、利用者側からは“コンサルタントを活用する意義”について考えてみました。

“コンサルタントを活用する意義”の一つとしてこの点を素早く導き出してもらえることがあります。また、現行法では認められていないしくみを導入すべきだという主張や現行法に対する批判といった“立法論”は具体的な解決策が求められているコンサルティング実務の中では意味を持つものではありません。

本稿が“どのような場合にコンサルタントを活用すべきなのか”についてのご参考になれば幸いです。